三輪眞弘「59049年カウンター」 2014年8月30日初演を体験して記す。演奏会から24時間以上経った今でも、うまく言葉をまとめられないし、脈拍は少し速い。
 演奏会の前日までは、作曲者の綴った解説文【※1】を読みながら想像を膨らませていた。<なるほど、この曲はシュトックハウゼン作『歴年』への応答として(木戸敏郎氏の要請で)つくられた背景があるのか。そして「21世紀の立場から『歴年』を再構造化する」ことが課題なのか……。こう解説文>読み進めることは、もちろん楽曲それ自体を経験するのとは違う。けれど初演に先立って解説文が公開されたのを知って、予断することになると思いつつ、読んで初演を待つことにした。

 当日いざ聞いていると、だんだん、からだが強く緊張していく。作品はレインスティックのソロから、五度の和音が鳴ってはじまる。<雨合羽を来たパフォーマーが舞台上を静かに歩き、アンサンブルが西洋楽器を鳴らしたりやめたりする。2人の歌手が断続して、旋律のついた詞を歌いあげる。しばらく>観ていると、変わった格好の「桁人」達と、普段着の演奏家=「傍観者」達とが大きく対比して、舞台上が日常の様々なものを抽象しているように見えてきた。
 桁人は分担して1:2:3のリズムを鳴らしているが、その調子は(桁人は演奏の専門家でないからか)やや転びそうになったりしている。それよりも、気になるのはリズムではなくて、舞台上を動きまわる桁人の歩きのほうだ。動きから「決まりきった身振り」が読み取れない。パフォーマンスによくある西洋的な身体性は欠如していた。それなのに、なにか別のものに従って動いていることは伝わってくる。この特殊な状況から、舞台のうつろいを見ていると不安定さを感じた。
 いくつか電子楽器(と音響の増幅)がありつつも、舞台上のすべては人間によって粛々と進行している。そのうち手続きが判ってきて「桁人は、こう動いているな」「傍観者は、桁人の状態を読み取って楽器を鳴らしているな」と了解しても、謎の緊張は解けず、脈が速く打っていた。もちろん規則を理解することも、楽曲それ自体を経験するのとは違う。終始べつの緊張感があった。
 ひとつ気づいたのは傍観者の外部に、更なる傍観者がいたことだった。歴年になぞらえたのか「悪魔」と呼ばれるらしい(この名前は終演後、雑踏の中で聞こえて知った)この役割は、ひとりコンピュータを持って屈んでいる。曲全体の進捗を監視しているようだった。解説文やプログラムノートに載らないこの役割もまた、かならず人間によって行われるしかない。そして、どんなシステムも原理的には無限に「悪魔」を求めるだろう……監視、そして監視の監視が要る……という意味では、「悪魔」は破滅の象徴のようだった。もしこの舞台上に、作曲者の考えるような「人類とテクノロジーの暗喩」があるとしたら、成功や勝利や発展というべき状態はどうやって得られるだろうか? どんな形であれ綱渡りでしかない!

 ぐるぐる考えたり耳に集中したりして、あっという間に25分弱が過ぎた。じつは舞台のスクリーンには数字と記号が映され、ずっと変化をつづけていたが、ここで楽音とリズムがすべて止み、ついに表示も止まった。
 聞こえた音だけを思い出すと、テンポは60未満くらい(または≒110?)で安定していた。傍観者の演奏も、詠人の歌も、けして音響の新奇性を見せびらかす仕方ではなかった。(玲瓏とした声色での二度音程やグリッサンドは、現代日本の軽音楽と類比できそうではあるが)もっと他に、たくさん考えることがあった。
 曲が終わっても動悸する中で、こんな印象を持った。……現代が「なんらかの協働体制がつづくことで、社会が円満に進歩していく」ことを終えてしまって、それでは一体「何であるのか」を語るような、だからこそ聞いていて(きらきらしい音色なのに)懊悩してしまう音楽。人間が歴年する価値についての絶望的な変質、そして果てしない(数えきれない)負債を抱えた地点に立っていることの確認。技術と人間の(かなしい)交歓、永続性の戯化……。
 次の日に、あらためて考えこむ。工業技術が大規模かつ微細に浸透した現代社会で、「人間は自由だ」と言うことは(どうやって)できるだろうか? 個人としての私は、遠い未来まで生きつづけることはできない(たとえば茶碗ひとつさえ人間より長持ちしたりする)。いずれ人類も死に絶えてしまう(どんなに少なく見積もっても、きっと現生人類のほとんどはそう)……。それでも抜け道をさぐるようにして、抗いながら生きたいと思った。

【※1】……作曲者ウェブサイト上、 http://www.iamas.ac.jp/ ̄mmiwa/59049.html

初演聴衆者による記事投稿/投稿者:S.H.

<マザーアーススタッフより>
三輪眞弘氏の作品は、常に初演時に楽譜がならぶ!をモットーに制作して来ました。
今年も、もちろん、その予定で当然楽譜は出版完了!準備万端です。
多くの聴衆の方から、アクションや楽譜購入、メッセージを頂きました。
その中より、記事として投稿して下さったものを掲載しました。

当日、演奏を聴かれた方も、そうでない方も、楽譜を見たい!という方は、お気軽にマザーアースに来社して下さい。もちろん見るだけ!もOKです。
楽譜はオンラインショップや、全国の楽器店(取り寄せ)にてご購入頂けます。

今回の楽譜は、新しいシリーズの始まりとして、サイズや体裁が全面的にデザインが変わりました。
永原康史氏+平林美穂氏の素敵なデザインと装丁で完成し、楽譜はカラーページで作成されている部分があります。もちろん、ここでカラーを使用していることが、作品上重要な意味を持っています。

マザーアース/T